茨の欠片
【次作】鳴らない音 https://youtu.be/m9IxiX2P14s 『茨の欠片』 著:YOCCHI ひび割れた赤い月が空を裂き、黒い雨が音もなく降り続く夜だった。 私は雨に濡れた瓦礫の上で立ち尽くしていた。足元には砕けたガラスのように散らばった黒い茨の欠片が、私の血を吸い込むように濡れている。 夢はずっと前に捨てたはずだった。声を出せばそれは罪になると知っていたから。だから何も言わずに笑うふりをして、空っぽの笑顔を誰にも見えない夜に隠してきた。 それでも、その夜だけは違った。 冷たい風が頬を切り裂いたとき、胸の奥に残っていた小さな灯火が、痛みと一緒に目を覚ましたのだ。忘れたはずの夢が、指先で泣き出すように疼いていた。 茨の欠片が胸に突き刺さるたび、私の中の何かが壊れていった。けれど壊れるほどに、不思議と生きている実感が胸に滲んでくる。 「壊して、私を。」 そう呟くと、冷たい雨音がその声をさらっていった。 影だけが寄り添う夜の中、黒い雨が身体を打ち付け、血と雨が混じる匂いが息に絡む。罪の香りが肺の奥に届くたび、私は赦される気がした。 首筋に宿した赤い月が、私の痛みを照らし出す。 泣きたいのに泣けない。笑いたいのに笑えない。だからせめて、この夜だけは本当の声で叫びたかった。 「あなたを、壊して。私を、救って。」 目を閉じると、血の味がする夢の中で、あなたが笑っている。いつかの優しい笑顔を浮かべて、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。 それが嘘でもいい。この夜だけは。 砕け散った茨の欠片を胸に抱きしめながら、黒い雨の中で私は歩き出す。痛みだけが私を生かしてくれるこの夜を、赤い月がずっと見つめていた。 「それでも、愛してる。」 その言葉が雨に溶けて消えるとき、私は初めて泣くことができた。
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